
波多 瑞紀
小学生よりチヌ釣りに目覚める。中学生のころにはチヌフカセ釣りをはじめ、以来、わき目もふらずチヌフカセ釣りに打ち込んでいる。生粋のトーナメンターで、環付き足長ウキスタイルを流行らせた人のひとりである。
食としてのチヌの地位を向上させるべく、#ちぬくっく で創作チヌ料理を模索する日々。
自己記録のチヌは56㎝。第36回G杯争奪全日本がま磯(チヌ)選手権優勝。ほか入賞多数。
瀬戸内海屈指の大チヌエリア香川県詫間沖

トーナメンターがこぞって通う香川県詫間エリア。
だが、広島・岡山エリアからはけして身近というほどの立地ではない。一体、どんな魅力があるのだろう。

「大型のクロダイ、特にロクマルを意識したサイズの可能性があるという意味で、瀬戸内エリアでは頭ひとつ抜きん出た存在ですね。そのうえ魚影も濃い」
時間さえあれば、年中、チヌ釣りに行く波多。そのすべてはトーナメントの練習であり、基本的には、サイズより数を意識している。

「50㎝を超えると年無しと呼ばれ、10年~20年も生きている場合があります。その分、希少で賢いか、または、アベレージサイズとは、行動や食性が少し異なるのでしょう。広島・岡山ではめったに釣れません」

そんな大型のチヌを求めて訪れた詫間の森渡船。目標は50㎝オーバー、夢はロクマルを手にすること。
「自己記録が56㎝で、コロナのころにここ詫間で釣ったチヌです。今シーズンも何度か来ているのですが、デカいのを掛けて、なすすべもなくやられましたね。あれともう一度、勝負がしたい」
普段は、道糸1.75号・ハリス1.5号なのだが、大物狙いとあって、道糸2号・ハリス2号をセットした。波多にとってはロクマルを獲るための極太タックルである。

「竿もアテンダーⅢの1号53でいってみます。いつもは0.6号を使っているのですが、パワー勝負するための1号ですね」
用意した付け餌の種類が多い。

「7種類くらいありますかね。オキアミ、赤いオキアミ、黄色いオキアミ、ボイル、黄色い練り餌、赤い練り餌、丸エビ。遠投用の硬いオキアミとかもあります。これを活性に応じて使い分けます」


とりわけ、付け餌の色にはこだわりがある。
「どの色が見えるとかいう話は別にしても、色を判別しているのは疑いようがない。面白いもので、黄色がいいタイミングの時は、胃内容物が黄色い餌ばっかりになります。白がいいときは、白ばっかり。色が混じっているよりも、偏っている方が多いですね。一説によると、群れがやってきて、最初のチヌが餌を拾う時に食べて平気だった色ばっかり、群れのほかのチヌも選んで拾うようになるとか、そういう話を聞いたことがありますね。だから、同じ日でも、時間帯で黄色ばっかりがよく釣れるかと思ったら、群れが入れ替わって白ばっかり釣れるようになったり、そういう経験はありますよ。怖いのは、トーナメントの前日プラクティスで黄色ばっかりよくて、頭の中が黄色黄色ってなっている時に、大会本番では白のオキアミがドハマりして、頭の切り替えができずに敗退するとか。そういうことがままありますので、餌の色は決めつけずに、ローテーションさせるように気を使っています」
タックルを組む前に、まず、餌を撒く。もちろん、ポイントにチヌを寄せる目的もあるが、安全に食べることができるエサであることをアピールする目的もある。あとは、群れの最初のチヌが、黄色を選ぶか、白を選ぶか。

「最初は深いタナで喰うと思いますが、途中で浮いてきて、割りと浅いタナで喰うようになると思うんですよ。そのパターンにハマれば、数もサイズも出ると思います」
当日は小潮だった。だが、そこは瀬戸内である。満潮から下げている途中のタイミングであったが、かなりの速度でウキが流れている。
「大潮だと釣りにならないくらいの激流になるらしいですね」
小鈎・環付き足長ウキの使い手
ロクマルを見据えるともなれば、ハリも大きくなる。
「3号ですね。チヌエースの3号。ふだんは2号を使います」
エサをスローに落とすなら小鈎がいい。エサ取りになるべく目をつけられないように、撒き餌に紛れ込ませるなら小鈎がいい。違和感なく吸い込ませるなら小鈎がいい。飲み込ませて外れにく喉に掛けるなら小鈎がいい。
現代トーナメンターは小鈎使いが標準化している。波多の鈎ケースに納まる鈎は3サイズで、1号、2号、3号である。


「口の奥深くに掛けたいので、ストレートポイントの鈎がいいですね。特にGハードV2を素材にしたチヌエースは、細くても形状が変形しづらく、いい場所に掛かって、伸びや折れがないですね。そういうトラブルがほとんどなくなりました」
社会人になるタイミングで手にした環付き足長ウキ。
波多の代名詞ともいえる存在で、波多の釣りになくてはならないアイテムである。


「僕が使うのは宗うきですね。大ファンというか、このウキがあって僕がある。もちろん、G杯で優勝した時も使っていましたし、ウキを作る職人さんとのドラマもあるし、このウキ以外を使うことはないんじゃないかと思うくらい思い入れがある。環付き足長ウキなら何でもいいんじゃなくて、宗うきじゃなきゃだめですね、僕の場合は」
それほどに入れ込む宗うき。

「メリットを上げればきりがなく、デメリットがあるのかといわれれば、正直、見当たらないというか、しいてあげれば中毒性が高いことと、入手が困難な事。あとは、トップに傷が入りやすいことですかね」
5年以上乾燥させた山桜から削り出されるという贅沢な造りで、通常、ウキに使用されることの多い桐材は柔らかく浮力が高いのに対し、山桜は非常に硬く、比重が大きい。脚の最下部に施されたウエイトによりボディ全体がしっとりと海水を捕らえる様は、このウキの完成度をあらわしている。

「海って、風や波の影響をもろに受ける表面の流れが複雑で、釣りを難しくしているんですね。ウキの周囲の道糸を3㎝海面下に潜らせることで、フカセ釣りは劇的に変化します」

もともと環付きウキはラインとの接点が1点しかなく、円錐ウキよりもラインの通りがいい。その際の道糸が、水面下にあるため、既定のタナまでスムーズに送り込みやすくなる。
波多のスタンダードなタックルセッティングは、宗ウキ3BにG3-G5-G5とオモリ3個を段打ちする方法。もちろん、流れや魚の反応、タナにあわせて細かく調整していくことになるが、はじめての場所だったり、その日の様子を探るときは、まず、このセッティングからスタートし調整していく。ハリスは最初に2.5ヒロ取り、魚が浮く場合には短く調整する。
「デカいのを狙うなら、2月、3月、4月ですね。5月のゴールデンウィークがラストチャンス」

この撮影の2週間前にも詫間へ足を運んでいて、その時は魚がかなり浮いていて、竿をひったくるようなアタリもあったという。
「コマセを撒こうとバッカンに目を移していると、竿を引っ張られるみたいなアタリが連発して、アベレージもデカかった」
だから、この日も最初はボトム付近でアタリがあったとしても、そこからは魚が浮き、ふたヒロよりも浅いタナで連発するだろう。その中で、どうやって50㎝オーバーを選ぶかという展開を何度もシミュレーションし、数釣りの呪縛から解き放たれ、ワクワクしながら当日を迎えた。
それが皮算用であることをもうすぐ知ることになる。
満潮から下げ潮の朝マヅメ、果たして大チヌは浮くか
案の定、1投目からは当たらない。タイミングは満潮からの下げ。潮の流れは左から右へ流れている。

「仕掛が完全になじむまでというか、餌がウキの下にぶら下がるまで。それがチヌに口を使わせることができるタイミングと考えています。斜めに張られた仕掛が落下している途中ですよね。もちろん、喰わなければ長く流しますが、ふつうはエサ取りが多いので、けっこう早いタイミングで餌が取られてしまいます」

仕掛がしっかりなじんだところで、待望のアタリ。サイズは40㎝台と狙いのサイズではないものの、なかなかの良型に滑り出しは好調だった。
「トーナメントだったら、いまでもこの1枚を釣った後は、緊張で手が震えて鈎が結べないこともありますよ」
そんな緊張とは縁遠いこの日、場荒れさせないために、すぐにはリリースせずにスカリにストック。

その前に、時合いを持続させるために、撒き餌を投入していたところも見逃せない。

オキアミ、ボイル、練り餌を一投ごとに吟味してセレクトしている様子からも、付け餌という要素を重要視しているのがわかる。ちなみに、エサ取りに対する強さや喰いのよさだけではない。

「落下のスピードが違うんですよ。一番、スローに落ちるのがボイル。次がオキアミ。練り餌は落ちるのが速い。特に、赤い練り餌はスピードが速いですね」
エサ取り対策という意味でも、練り餌とオキアミでは、好む魚の種類が違う。

「練り餌は基本的にはエサ取りに強い餌なんですが、アイゴとかは練り餌が大好きなんですよね。いま持っている餌だと丸エビは、殻が硬くて餌をとられにくい」
オキアミは頭を取って尻尾から刺すのが波多流。

「なるべく目立たないように撒き餌になじませて、エサ取りに見つかりづらくします。大きな餌、早く沈む餌などは、たちまちフグやカワハギの餌食になってしまいます」

2枚目は振り込んでからアタリが出るまでが早かった。そうして3枚目。振り込んだかと思う頃には、もうウキに反応が出た。 「チヌが浮きましたね。なじむ前にあたっています。仕掛を軽くしましょう」 ウキを3BからBに交換し、ハリスも短く、オモリはG4を2個に。タナもふたヒロに浅くした。

ここから波多のスパートが始まった、となる予定だった。
浮いたはずのチヌが沈んでしまう乗っ込みの難しさ
だが、ここから長く沈黙することになる。
ダラッとしていた流れが加速し、目で見てわかるくらいの速い流れになった。チヌの活性が上がり、連発するのかと思いきや沈黙したのだ。もっとも読み違えた、仕掛けがあわなかったというわけではない様子。

「なんだか流れが速くなったタイミングで潮の色が悪くなったように思ったんですよね。それと同時に、海全体の活性が低くなった。だって、オキアミが無事にかじられもせずに上がってきますもん」
冷たい潮でも入ったのだろうか。エサ取りの存在まで沈黙してしまった。加えて、この日は北西の風がパタリと南の風に変わる予報で、しかもけっこうな風速になるようだ。
「向かい風は釣りづらいですよね」
流れが速くても潮止まりでも、すべての流速に対し、引き出しを持っている波多ではあるが、それでもチヌが口を使いやすい流れはあるという。

「いまはまだ速い。チヌの活性が低くなったこの状況では流速が緩んだ時にチャンスが訪れると思います」
釣れないとなれば、いろいろな引き出しを繰り出すのがトーナメンター。そのひとつがコマセワーク。フカセ釣りにおいては、撒き餌と付け餌の同調は、チヌ・グレ問わず、重要な項目となる。
ところがベースとなる波多のコマセワークは、撒き餌をウキの手前に撒く動作のようで、これでは撒き餌に付け餌が同調していないように見える。


「煙幕の真ん中ではなく、外側、周囲、外れた場所を意識して攻めています。そういう場所にサイズのいいチヌがいます。撒き餌をキャストしたときに、まわりにこぼれる分があるじゃないですか、分裂したり。そうやって広がったやつを大型のチヌが拾って喰っているイメージですね」

そのコマセワークで反応がないとなれば、撒き餌の煙幕の中に刺し餌を入れたり、ウキの手前と奥に入れたり、3回1セットで打ち込んだかと思えば、8回、10回と多めに打つこともあった。
「2時間の試合をイメージして、配られた集魚剤をちょうど撒ききったり、わざと余らせたり、とか、そういう練習を常に心がけていますね」
チヌに対する集魚剤の効果は疑いようがなく、少ないよりは多いほうが望ましい。だが、トーナメントでは既定の量があり、撒ける量に限りがある。
干潮が近づき、潮が緩んだ。ウキがゆっくりと流れ、ベールをフリーにして送り込むほどではなくなった。待ち望んでいた時合いだ。
「タナは深くしています」
活性が高くなり浮いた想定ではなくなったタイミングで、ウキも仕掛も元に戻し、タナを下げていた。そうして底をこするように流すと、小さなアタリが出た。しっかり喰い込ませてアワセると、アテンダー1号を大きく絞り込んだ。


やがて上がってきたチヌがデカい。これは50㎝あるだろうと取材陣が色めきだつも、波多の目ジャーは年無しには届いていないと判断していた。
案の定、49㎝。直前にも42㎝のチヌを釣り、誤差なくピタリと当てていた波多である。

「やっぱり足りないですよね。実際、48㎝、49㎝って多いんですよ。49.6㎝とか、49.8㎝とか。なかなか50㎝というのは簡単には超えられない壁なんですよね」
潮止まりでアタリが止まり、干潮からの上げで潮の流れが逆になり、流れ出してもアタリが止まったままだった。
「このポイントは、上げはいまいちなんですよね」
周囲を見渡し、砂浜?のような白い砂底が続くシャローの前に移動した。
「こういう浅い砂浜って、いかにもノッコミという感じの釣り場ですよね」
先ほどの磯場に比べると、水深も浅く、魅力的には見えない。


「沖に漁礁があるみたいなんですが、その漁礁に向かって撒いた餌が流れると、群れを釣り場まで引き込めると思うんですよ」
すぐには結果が出なかったものの、撒き餌が効いたのだろう、鋭いアワセとともに連れてきたのは、40㎝級のチヌ。

その後も何枚か追加したもののサイズは上がらない。
「このままでは50㎝までは難しいでしょうね」
向かい風も強まり、いよいよ釣りづらくなってきた。
水深5m、砂主体の浅場で連発

ここで磯変わり。風裏を求めて島の裏側に回った。
足場こそ磯だが、砂底のシャローエリアで底の白い砂が一面に広がっている。ただ、手前40mには大きなゴロタ石が点在していて、大きなチヌが掛かるものの、ゴロタをかわし切れず取り込めないという難所だという。
海岸線に崖から崩れるゴロタがある。

その延長にも同じような地形があるだろう、と崩れるゴロタの延長を狙い、やや遠投気味に釣りを展開する。
水深はせいぜい5mで決して深くはない。流れはほとんどない。しばらく攻めたものの反応がなく、タナを深くして餌が底を引きずるように流した。


すぅっともたれるようにしもり、そこから勢いよく走らないウキ。さらに明確なウキの動きを待って、しっかりとアワセをいれた。上がってきたのは40㎝オーバーのチヌ。
この描写からもわかるように波多のアワセは遅い。小鈎を確実に喉元に掛けるために、飲み込むまでの間を取る。時には10秒を超えるのではないだろうか。この時も、ウキがシモったまではよかったものの、その後、深く消し込むでもなく、その場に留まっているウキを見てアワセるタイミングをはかっていた。

「スパンと消し込んでくれればいいんですけど、餌をくわえたチヌが動かないから、ウキも動かない。くわえただけなのか、動かないけれども餌を飲み込んでいるのか。その時間を見ているんですよ。唇付近に掛かるようではタイミングが早い。小鈎なんで口の堅いところにはかからない。もちろん、活性が高ければアワセも早くなります」
小鈎なので違和感を覚えるまでの時間も長く、吐き出されるよりは飲み込まれる方が多い。このアワセのタイミングの調整も小鈎使いの技術のようで、決して早いタイミングには見えないケースでもすっぽ抜けて空振りをくうケースもあった。

連発に持ち込み、夕まづめの雰囲気が出てきたところで、良型。
今度こそ、50㎝!と撮影班がメジャーを当てるも、48㎝だった。

極端に流れが緩んだ翌日、果たして50㎝オーバーは釣れるのか
翌日、同じ場所に渡った。わずか1日の違いであるにも関わらず、さらに小さくなった潮回りの影響で、潮の流れが劇的に遅くなった。前日と同じ展開を予定し戦略を練っていたが、満潮から下げに変わっても一向にスピードが上がらない。とはいえ、チヌを釣るには過不足ないスローな流れでポロリポロリとコンスタントに拾う。


「ただ、ちょっと……サイズが伸びないですね。流れて行く撒き餌の方向が磯と平行すぎるのかもしれませんね。どちらかというと岸から離れて斜め沖に出て行ってくれるといいんですが」
満潮から下げ潮いっぱいまでやって10枚ほど釣っただろうか。ただ、サイズは35㎝~42㎝で、50㎝には遠く及ばない。
「黄色いネリエの日ですね。オキアミもエビも試しているけど、とことんネリエ。しかも、底に擦り付けるようにしないと反応がない」
中層や底付近ではなく、底についている状態。

「ネリエは重いんですね。オキアミでギリギリの浮力セッティングでネリエを使うと、ネリエの重さがウキに乗ったところからウキが沈み始めます。それがダメということではなくて、タナに落ちるまではスピーディーに沈むわけですよ。でも、タナに到達すると、ウキの浮力が掛かるので、パラシュートのようにスローに沈むようになります。このスピードの変化が誘いになります」
そのスピードの変化が出る瞬間を、タナの直上に持ってくるように仕向けます、と涼しげな顔でさも簡単そうに波多はいう。
夕方いっぱいまでやるとして、残り4時間。ここからは上げ潮となる。

「上げ潮は、ほら、昨日もダメだったし、船長に移動しようって提案したんですけど、夕まづめ、絶対にあるから、そのままやってくれって(笑)」
上げ潮で当然、流れが逆転するのかと思いきや、右へ行ったり、左へ行ったり、ふらふらしている。昨日はダメでも今日はいいのが魚釣り。上げ潮では別の群れが入り、45㎝クラスまじりでサイズがいい。そうして、ふらついた流れが沖へと角度を変えて流れる場所にウキが差し掛かった時、この日最大の獲物がアテンダーⅢを曲げた。
「とはいえ、これも48㎝でしょう。50㎝はないなぁ」

最大となるチヌを仕留めたものの、寸足らずだろうと話す波多のいう通り、50㎝には届かなかった。
「60㎝って、ホントに幻ですよね」