GAMAKATSU がまかつ

西森康博 ATTENDERⅢプロトロッドテスト釣行の記憶 尾長の聖地・鵜来島水島2番

西森康博

にしもり・やすひろ

“グレの鬼才”松田稔の釣りをもっとも間近でいちばん見てきた名手。高知県沖ノ島と鵜来島をホームにスレッカラシのデカ尾長を手玉に取る。67cmを自己記録にこれまで仕留めた60cmオーバーは通算40尾を超える。

デカ尾長のラストチャンスは5月
キーワードは半夜釣り

高知県鵜来島。
宿毛湾の沖合約23kmに位置し、「水島2番」や「グンカン」といった、フカセ師なら一度は行ってみたいと憧れる超一級磯が点在する磯釣りの聖地である。

2023年5月17日。
アテンダーⅢ1.75号5.3mのプロトを携え、日の出前の暗闇の中、黙々と準備を進める西森の姿があった。4時30分。宿毛市の片島港より出船。この海域は4月中旬より半夜釣りが解禁され、朝~夕方にかけて丸一日尾長グレを狙うことが出来る。一方で、釣れる時間が長くなるということは、それだけ魚にかかるプレッシャーも増えていく。
今回のテストは、1日目は昼釣りと半夜釣りの通し、2日目は昼釣りというスケジュールで尾長グレを狙う。半夜釣りが始まり、夕まずめのチャンスも増え、期待は膨らむが状況は厳しい。2023年は尾長グレの数が少なく、20年に一度の絶不調だという。
この海域は尾長グレの有名ポイントゆえ、ほぼ通年にわたり、釣り人が入り、マキ餌が撒かれている。ここに潜む尾長グレは、その栄養価の高いマキ餌を食べ続けることで、3号ハリスを引きちぎるようなすさまじい引きを誇るようになる。
一方で、釣り人のプレッシャーにさらされ続けているため、尾長グレを掛けるためには、正確なマキ餌ワーク、状況に合わせた仕掛けの選択、刻一刻と変化する状況に合わせた対応、わずかなアタリを見逃さず口に鈎をかけていく集中力が求められる。さらに、尾長グレが口を使う時間帯は日によって異なり、マキ餌を撒いても全く姿を見せない日も少なくはない。
そのような複雑な条件が絡みあう中で、状況を見極め、繊細なアタリを見抜き、強烈なやり取りに耐え抜いて初めて顔を見ることが出来るのが、この海域の尾長グレなのである。
ただでさえ、魚が少ないうえ、マキ餌とサシ餌を同調させないと反応すらなく、口を使う時間も極端に短い。そんな厳しい状況の中でテストは始まった。

マキ餌を撒いた直後の海面

マキ餌とサシ餌の完全同調

マキ餌の真上にウキを浮かべるのではない。マキ餌の中にサシ餌を同調させる。ピンポイントで打たれたマキ餌ゆえ、同調させるための幅は想像以上に狭い。

釣り人がアワセをいれている様子

電光石火のアワセ

道糸の傾き、ウキの角度のズレを察知して、瞬時にアワセをいれる。ズボッとウキが沈み込むのを待つようでは、エサを離されたり、鈎を飲み込まれたりしてしまう。

マキ餌でおびき出し、海面へと浮いてくる魚影

ウキ下は矢引き

ウキを沈めて深くまで探るのではなく、マキ餌ワークでおびき出し、浮かせて、寄せ、ひとヒロよりも浅いタナで喰い気が立った瞬間を逃さずに喰わせる。

思い出の地、鵜来島本島の
シロイワのスベリ
だが、この日は尾長の姿が見えない

最初の上がった磯は鵜来島本島シロイワのスベリ。過去には西森が67.5㎝の尾長グレを釣り上げたこともある一級ポイントである。

まずはマキ餌をうち、水面をじっと眺める。潮の向きや速さ、マキ餌がどのように沈んでいくのか、エサ取りや魚が出てくるタイミングなどそこから得られる情報で、魚を獲るためのロジックを構築する。マキ餌をうち、仕掛けを投入していく。一投ごとに微調整を行い、魚の反応を探っていく。
しばらくすると、魚の反応があるものの、掛かるのは小型の口太や尾長グレばかり。上層を泳ぐこれらのエサ取りを避けるため、仕掛けを少し深めに入れていく。その後、すぐに反応があったが、掛かってきたのはキツ(イスズミ)であった。
結局このポイントでは大型グレの姿は見ることが出来ず、磯替わりとなった。

ケースから仕掛けをセレクトする西森の後ろ姿

ウキのセレクト、オモリの微調整を行い、浮力や張り加減、なじみ具合を合わせていく。わずかなズレをも許さないのが、この海域の見えグレ。

バッカンの中のマキ餌と、それを撒き餌杓ですくう様子

マキ餌はボイルとアミエビのみ。状況によってボイルの量を調整している。まとめるためにしっかり水分を切ってある。

マキ餌に浮上する尾長の群れ
ワンチャンスをものにした西森53cm

午後からはいよいよ本命ポイントとなる水島2番の「奥」へ渡礁。事前の情報によるとサメが出ているということで、厳しい状況を予想していたが、幸いこの日はサメの姿はなかった。渡礁後、マキ餌を打つとマキ餌に群がる魚の姿が見え、期待が膨らむ。
そして、その期待はすぐに現実のものとなった。

14時40分過ぎ、西森の持つプロトロッドが大きく曲がった。プロトロッドが弧を描き、魚の引きを吸収していく。数分間のやり取りののち、上がってきたのはコバルトブルーに輝く47cmの尾長グレ。厳しい状況の中での1枚に自然と笑みがこぼれる。
状況が少しずつ良くなり、魚の活性も上がってきていた。短いチャンスタイムを活かすためにも、すぐに次の仕掛けを投入する。

47cmの尾長グレが収まるタモ網を掲げ、笑顔の西森

いい流れが出ていてマキ餌にグレが反応した。残念ながらロクマル尾長は目視できなかったが、見えグレを攻略し、1枚目。47cmとはいえ丸々と太った体高のあるいい魚だ。

そして15分後、再び西森の竿が大きく曲がった。先ほどより明らかに強烈な引きで必死にラインを引き出そうとする。この強烈な引きに対し、竿尻を腰に当て、竿の反発力を最大限に生かすことで、主導権を渡すことなく、魚の体力を奪っていく。
前作アテンダーⅡと比較してもより、魚を浮かせやすくなったというアテンダーⅢ。その特性を最大限に生かすことで、強烈な尾長グレの引きに対しても攻めの姿勢でやり取りを行うことが出来る。

腰を大きく落とし、強烈な引きに応戦する西森

時合いは短い。手早く撮影を済ませ、15分後に掛けた53㎝。強烈な引きに腰を落として応戦する西森。この状況下においては、最大値といえる獲物であったが、西森もアテンダーⅢもまだまだ余裕がある。

ウキが水面を割り、水中には青白く平打つ魚体が見えた。明らかに先ほど釣った47cmより大きい。竿の反発力により体力を奪われた魚は大きな抵抗を見せることなく、タモの中に吸い込まれていった。

この海域特有の重量感と体高のある魚体。瞬発的な泳ぎを可能にする大きな尾鰭。青く輝く鱗。53cmの立派な尾長グレだった。この海域を知り尽くし、竿の性能を十二分に活かしきり、結果を残す。まさに限られた名手にしかできない技術に支えられ、がまかつのロッドは生まれていることを実感した瞬間だった。
その後、尾長グレの姿は見えるものの、潮も変化し、なかなか鈎掛かりに至らない状況が続き、この日は終了した。

53cmの丸々と太った尾長グレを掲げ、笑顔をみせる西森

丸々と太った尾長53cm。口を使わせることの難しさ、一瞬のタイミングを逃さず繰り出されるアワセ、強烈な引きに糸を出すことなく耐える技術と強い意志。
聖地・鵜来島とはいえ、すべてが高次元に達していなければ、ロクマルどころか1匹のグレにさえ出会えないのが、聖地であり激戦区でもある鵜来島の実情である。

2023年05月23日 53cm

マキ餌を打てど、姿は見えず
前日のパターンが続かない
聖地・鵜来島の難しさ

2日目、前日53cmを上げた水島2番の「奥」へ再び渡礁する。前日は活性も高く、エサを食べに浮上する尾長グレの姿も見えていたため、期待に胸が膨らんでいた。
しかし、この日は全く魚が浮いてこない。マキ餌のタイミングや量、打つ場所を変えるなど、工夫を凝らすも、魚は見えない。西森いわく、潮も良くないということで、わずか1日で状況が大きく変わってしまう、この海域の難しさを体感する形となった。結局、この日は魚が見えず、テストは終了となった。

名竿と呼ばれるアテンダーⅡを超えるべく、開発されたアテンダーⅢ。そのテストには魚を掛けることが必要であり、その魚を掛けるためには海域を知り尽くし、厳しい状況でも結果を残すテスターの技術が不可欠である。
がまかつのこれまでの竿づくりで蓄積された技術とテスターの類いまれな釣りの技術により名竿と呼ばれる竿は生まれるのである。