沖永吉広
G杯争奪全日本がま磯(チヌ)選手権2勝をはじめ、数々のトーナメントにおける全国大会常連のトーナメンター。チヌ釣りの本場、広島で腕を磨く。使うウキは棒ウキの遠矢ウキ。急流や浅瀬、浅ダナが得意。自己記録はロクマルに5mm足りない59.5㎝。
トーナメンターがロクマルチヌに目覚めた瞬間
遡ること2年前。2024年の4月、沖永とカレンダーの撮影に出かけた。「せっかくなんで、ロクマルを狙いましょう」とけしかけ、当初は、あまり興味がなかった沖永だが、わずか3投で57㎝を釣り上げ、沖永の自己記録をあっという間に更新してしまった。
そこで何かに火がついたらしく、翌年はプライベートで通い59.5㎝まで仕留めたという。そして、2026年、暇さえあれば、いや、暇を作り出しては、足繁く宇和島通いを続けているという。
「普段、御五神島でグレメインのうえむら渡船さんが、チヌ釣りエリアの渡船を始めるシーズンが4月~5月の連休までになるので、それ以外の時期は、しょいこを背負って地磯巡りですね。漁港や堤防でやる場合もあります」
冬から春にかけてロクマルを釣るべく、ほぼ毎週、通っているという。
「ロクマルは、なかなか難しいですね。ただ50㎝オーバーでいえば、今年だけでも20枚は釣ったと思いますよ。55㎝オーバーだと2枚とか」
いつか、といわず、今すぐにでもロクマルを釣るということを、今、一番の目標に置いている沖永である。満を持して、本命場のひとつであるうえむら渡船にタイミングをあわせ、やってきた、つもりだった。
ノッコミシーズンに1か月のズレは致命的
「よくないみたいですね」
1月、2月、3月とだんだん調子を上げて、3月に関しては爆釣といっていい釣果だっただけに、4月、渡船でないと渡れない本命エリアに、期待に胸を膨らませていたのだが、どうにも2026年はシーズンの訪れと過ぎ去りが早いのか、渡船の解禁時には、すでにノッコミ終わりかけの兆候が出ていたという。そして、爆釣らしい爆釣がなく2週間が過ぎ去ってしまった。幸いにというべきか、ちょうど前の週にロクマルが1枚出ているのが救いといえば救いといったところか。
もちろん、沖永の頭にはロクマルしかない。しかし、シビアな状況は覚悟しているようだった。
「これはロクマルがどうこうじゃなくて、1枚のクロダイを釣るのさえ危ういかもしれませんよ」
最盛期の聖地にやってきて、すっかり油断していた取材陣だったが、気を引き締めざるをえないと認識をあらためた。
ワンドのような静かな磯で良型のグレが釣れる
渡礁した釣り座は、沖永にとって初めての釣り場だった。
「乗る前に周囲の地形を見たいです」
船長に依頼し、周囲をぐるっと回りながら底質やかけ上がりの位置、水深を確認する。
「最高にいい場所ですね。しかし、根が荒い。これは取り込み大変ですよ」
両サイドにワンドを抱えた岬で、岬の沖には真珠だろうか、養殖棚が広がっている。岬の沖は、意外にも浅場が広がっていて、ポイントにならないと判断した沖永は、岬の左側にポジションをとった。
どう判断していいものかなかなかどうして、チヌが釣れない。そうして2時間がたった。
それとは対照的にグレがよく釣れる。手の平サイズ、足の裏サイズに混じって、40㎝オーバーも何枚か混じり、イサキにマダイまで釣れて、一瞬、よい釣果だと安心しそうになってしまうが、これはチヌの取材。
「グレの活性が高すぎますね。これをかわすのは至難の業」
オキアミはもちろん、練り餌に、話題のハイブリッドクロスまで投入するも、どれもグレ。もちろん、撒き餌も仕掛もチヌ用なのだから、グレ用に変え、グレを本気で狙ったらどれほど釣れることか。
だが、干潮前にズシッと押さえ込む引きをみせると、上がってきたのは良型のチヌだった。
「もしかしたら、これがこの二日間の釣行最後のチヌになるかもしれませんよ」
沖永のセリフを聞き、あわてて水中撮影に入るカメラマン。それにしても、美しい魚体だ。
夕方のゴールデンタイムに巨チヌはやってくる
巨チヌエリアは全国にある。だが、決して多くはない。四国でいえば、御荘湾、宿毛、そして、この宇和島がロクマルチヌの有望エリアになる。
「こういったエリアのチヌは、瀬戸内に比べれば、魚影は圧倒的に薄い。でも、サイズはデカい。50㎝は全然珍しくない。まあ、少ないといっても、それなりに数が釣れることもありますが」
時合いには共通した特徴がある。
「圧倒的に夕まずめですよね。夕方の15時を回って、16時、17時。いままでまったく釣れていなかったのが、夕方になり日が陰ってくると突然、釣れ出すんですよ」
産卵に絡むからなのか、夜行性なのか、クリアな水を嫌ってか、超がつく巨チヌは夕方にアタるのだ。
「もともとその場にいて急に喰いだすのか、それとも夕方、回遊してくるのか。どっちのパターンもあると思いますが、回遊してくるケースの方が多いでしょうね。だいたい5匹くらいの同じサイズの群れをイメージしています」
そしてそれは、この日、とうとう最後までなかったのである。
「ちょっとヤバいですね。明日は、なんとか1枚を目標にします」
てっきりロクマルを狙いつつ、年無し50㎝オーバーを釣る話なのかと聞いていたのだが、そうではなくて40㎝でもいいからとにかくボウズを回避したいのだという。実際、この日、一緒に出ていた釣り客も、ボウズかせいぜい1枚。最多釣果が3枚で全国トップクラスのトーナメンターによるものとなれば、厳しい状況であるのは否めない。もっとも頭を悩ませていたのは船長である。明日は、どこにみんなを案内しようか。
最湾奥エリアでチヌの魚影を確認
翌日は、グレのいない最湾奥エリアに渡礁した。
「チヌ、けっこう見えますね。昨日とは全然、違う」
沖永の顔に、安堵の色が広がった。これだけのチヌが見えれば、1枚、2枚釣ることはできるだろう、と。
見えていたチヌ達も、船を磯に付け釣り人が立ったころには見えなくなっていたのだが、足元に1匹、竿先が届く距離をうろうろして、なかなか離れようとしないチヌがいた。
「これ、珍しいですよ」
逃げないだけでも珍しいというのに、撒き餌を撒いたらなんと拾い出した。
「見えているチヌが撒き餌に反応するシーンって、めったに見れないんですよ。特にこういう外洋エリアで、撒き餌に慣れていないチヌはなおさら」
警戒心が少ないあげく、撒き餌まで拾う。だが、サシ餌をいれてもエサ取りがいて、うまい具合に口を使わせることはできなかった。
この1匹に時間をとられては、釣りが乱れてしまうとちょっかい出すのをやめ、沖のチヌを狙いだしてしばらくたったときだった。おもむろにタモを取り出し、磯の壁のあたりでゴソゴソする沖永。
「入った。獲れちゃいました、チヌ」
なんと泳いでいるチヌをすくってしまった。さすがは百戦錬磨のトーナメンター。チヌの習性を理解しつくした沖永にとって、もはやチヌを手にするなら、釣り竿さえ必要ないのである。
「いやいやいや、さすがに僕も初めての経験ですから。ここまで無警戒なチヌって生き物としてどうなんですかね」
ちなみに、すぐにリリースしたわけだが、このあともしばらく足元に留まり、餌を探っていた。よほどこの場所に執着心があったようだ。そんなチヌを見ながらも、1枚目がなかなか釣れない。
ようやく1枚目を手にしたのは、10時。
「よかったー。ひとまずの目標は達成です。ボウズは逃れました」
サイズはかなり小ぶりで、普段なら不満が漏れそうなところだが、沖永の安堵した表情がこの1枚の貴重さを物語っている。
だが、ここで手を緩めないトーナメンター沖永。その20分後に良型を一枚。さらに、11時42分に43㎝。ウキを替え、タナを変え、オモリをつけたり、外したりしながら、餌をローテーションし、目の前のチヌを攻略していく。干潮を迎えるころには、当初の目標は楽々達成していた。
干潮からの上げ潮狙い。足場を大きく変え、水道の中心に狙いを絞った。春の大潮・中潮で干満の差は、2mをはるかに超えている。渡礁した時には満潮で、荷物を置くのも大変だったというのに、干潮時には足場が大きく広がっている。沖にあった壁のような急激な駆け上がりも、投げずに届くような場所まで前に出れるようになっていた。沖永が攻めたのは、沖のディープエリア。急なかけ上がりではなく、かなりドン深の沖を攻め続けた。
やがて潮が効き始めた13時39分。いままでとは明らかに違う竿の曲がりをみせ、51.5㎝の年無しをキャッチ。
「こういう深場の巨チヌは浮くんですよ」
この1枚には納得した様子。全体の様子を考えれば、出来過ぎの釣果だろう。
「ただ、この時間にこのサイズを獲れたことの意味は大きい。夕方にモンスターが回遊してくるときって、だいたい日中にいいサイズが釣れるんですよ。これはもしかしたらあるかもしれません。期待できますよ」
夕まづめまでに合計7枚のチヌを手にすることができた。まるで海域の不調が嘘のようだった。
夕マヅメ、おとずれた千載一遇のチャンス
「来たっ」
重々しくも強烈に走り込んだウキをみて、間髪を入れずにアワセが決まる。ジャ、ジャ、ジャと3回、レバーで糸を送り込んだところで、止める。
「巨チヌは糸を出してしまうと、とめどなく走ってしまう。マダイと違って、地をはうようにずーっと沖へ走るので、どこかで止めないと点在するシモリに糸が当たって切られてしまう」
止めることには成功したものの、まるで油断できない。周囲には養殖棚を止めるためのロープが無数に張り巡らされ、そのロープに巻かれないよう、チヌを誘導する。
「これはデカいよ」
見ていてもいままでとは明らかに違うファイト。さきほどの51.5㎝とさえ比べ物にならない。だが、確実に距離を詰めている。そうして、深々と沖へ刺さっていた道糸が、足元にある壁のように急激な駆け上がりに差し掛かった時だった。
「あーーっ」
天を仰ぐ沖永。
止めきって、寄せた。勝利が確定しつつある状況に見えた。
「慎重になりすぎたか」
緊張から解き放たれたアテンダー3の穂先がむなしく空を向いている。かなり強気のパワーファイトで挑んでいるようには見えたが、まだまだテンションを掛けるべきだったと反省する沖永。
「なるべくテンションを掛けて、浮かせなきゃダメなんですよ。中途半端でした。何かに触れたら、もう、ハリス2号でも3号でも一緒ですからね」
ロクマルには難しいサイズだろうが、55㎝はゆうに超えていたという。
最後のワンチャンスを信じ、回収の時間が迫る中、釣りを続ける。ウキが消し込んだ。強気で攻める、止める、ためる、耐える。アテンダー1.25号5.3mを信じ、パワーとパワーがぶつかりあう展開。この魚も大きい。だが、どこか沖永のファイトに緊張感がない。
「あぁ、でしょうね」
海面からのぞくその魚体はピンク色をしている。
「走りが鋭くてボトムをはう感じだったのと、寄せに入ってからの楽さですよね」
このマダイは60㎝を超えていた。メジャーにのせて、もし、これがチヌだったらと想像する。もっと丸々と太く、体高もあり、重さも1.5倍くらいになるとしたら、その引きは一体、どれほどのものだろう。
こうして、この旅のロクマルチャレンジを終えた。まあ、そう思い通りにならないのが、魚釣りの楽しさであり、自然の気難しさであろう。