Impression by
廣岡保貴
Yasutaka Hirooka
G杯鮎をはじめ、いくつもの大会で上位常連のトップトーナメンター。鮎釣りだけにとどまらず、春は渓流釣り、冬は磯釣りと季節にあわせた魚釣りを楽しむ。子供のころからというから渓流歴は長い。そのかなりの時間をゼロ調子の渓流竿で過ごしている。和歌山在住。
ゼロ釣法を可能にするゼロ調子の本流竿
90年代後半、渓流釣りブームのさなか、突如、姿を現したゼロ釣法。ナチュラルドリフト釣法の全盛期から糸は細ければ細いほどいいという流れはあったものの、0.1号という細さは、さすがに誰もが受け入れられるものではなかった。しかし、一部の使いこなした猛者は、まるで川にいるヤマメを釣り切らんばかりに、釣りまくった。ゼロ釣法と同時に世に生まれたのが、ゼロ調子の本流竿。すらりとスリムで長尺な仕舞寸が特徴で、小継ぎ渓流竿と比較すると、明らかに柔軟な胴調子の竿で、0.1号というナイロン糸をギリギリ使用可能なものにしていた。
時代は流れ2025年。なぜか渓流釣りを楽しむ人はグッと減ってしまった。団塊の世代が、みな年老いて渓から足が遠のいてしまったのだろうか。一部、ルアーマンには小さなブームになっているようだが、エサ釣師は少ない。
天井糸0.6号に道糸0.4号。手尻は竿の全長より10㎝ほど短い仕掛。鈎はⅤ2ヤマメとナノヤマメ3~7号を使う。オモリはG2をセット。
ゴールデンウィークの連休と連休の間に挟まれた4月30日。翌日には鮎の解禁日を控え、前夜祭の空気に色めきだった日高川龍神地区である。
「ともかく朝マヅメが勝負なんで、集合は4時半で」
気温は4℃。昨今の温暖化からすると極度に冷え込んだ朝だった。しらじらと夜が明け始めたころ、山道を降り渓に立った。ダム上とはいえ、まさに鮎の主戦場であるから、本流といってもいいのだろう。
「おかげでよく釣れますよ。30~50匹くらいは、ふつうに釣れます」
和歌山県日高川のダム上流域にある龍神地区が廣岡のホームグラウンド。関西を代表する鮎の銘川である。河川の管理が行き届いていて、実はアマゴの魚影も濃い。そんな人気河川ゆえ、ゼロ釣法の威力すさまじく、半日ほどでも十分な数が釣れるという話かと思いきや、廣岡は0.1号を使わないという。
「ゼロ調子というか、ゼロ釣法用の竿は使うんですが、メインで使う糸は0.4号ですね」
廣岡は糸を張らず、仕掛が流れにもたれかかるようにたるませた流し方を行う。この流し方を行うことで、仕掛は流れを切ることなく、流れなりに平行に流すことができ、時に竿先よりもはるか遠くにある対岸の岩盤際なども狙うことが可能になる。
「ある程度の糸の太さはあったほうが、流れを捕えやすいんですよ」
川虫を餌に軽い仕掛けで喰い込ませる
使うエサはシマゲラと地元で呼んでいる川虫。
「砂まじりの浮石の小砂利でよくとれます。お腹が黄色くて、すごくよく動くんですよ」
キンパクより少し大きめで、少々、硬さがあり、実に元気に動き回る。
「これとほぼ同じ見た目で、口がオレンジ色のやつもいるんです。ただ、こっちはあまり動かないので、いい餌ではない。シマゲラに対し、クソゲラと呼んで区別しています(笑)。シマゲラがとれないときには使うこともあります」
淵頭の一等地、流心わきの流れを静かに流れる目印が踊る。1、2、3秒、いったいいつアワセるのだろう、と見ていたら、ビシッとアワセ、アマゴが飛んできた。
「こんなに違和感なく、長くくわえていてくれるんですよ。これはいい竿」
ひときわ存在感を放つ木製のタモにおさまったアマゴを見つめながら、満足そうに廣岡が話す。
正確な振り込みから次々とアマゴが飛び出した
鞭のようにしなり、着水すべきピンポイントを目指し、飛んでいく目印。ヤマメ、アマゴという渓流魚は、好む流速があり渓流というプアな水域で効率よく餌を食べるために、流れの重なる場所、集まる場所にいる。あるいは、一番、速い場所の横に定位している。そのアマゴの定位する位置までに仕掛を沈め、なじんだ状態にしないと、あっという間に通り過ぎてしまう。かつ、重いオモリがついた仕掛は極端に嫌がられる。だから、軽いオモリが吸い込まれるように沈み、底の波になじむ、その振り込むべき1点に振り込み続けるだけの正確な振り込み性能が渓流竿には要求される。廣岡が開発でこだわった点でもある。
渓流シーズン終盤ということもあり、2匹、3匹釣るとアタリが止まる。躊躇なく移動し、数を重ねる。
「こんな1級ポイントで、しかもシーズン終盤で、ゴールデンウィークの途中ですよ。当たり前に釣れるくらい魚が残っているんですよね。もったいないというか、幸せな時代ですよ」
これならば無理に瀬の竿抜けを細かく探る必要はないと判断したのだろう。淵の大場所を中心に、テンポよくラン&ガンで1級ポイントばかり探っていく廣岡。
「18~20㎝がアベレージで、23㎝が出ればいい方」
そういっていた廣岡だが、朱点の輝く25㎝級を仕留めた。
もちろん、こんなに長く喰い込ませる必要はない。ただ、アタった瞬間に口を離されるような竿では、シビアな状況に対応できないときもある。スーパートップⅡが搭載されたこの穂先なら喰い渋ったときにも威力を発揮するに違いない。その見極めを行っていたようだ。
開けた下流域で長尺モデルの75-80を振る
ゼロリーダーⅡは3種類の長さをラインナップしていて、廣岡が先に使ったのは65-70。主戦場としている日高川龍神の上流エリアでは、川幅的に長さがちょうどいい。その仕上がりに満足すると、次は川幅の広い本流域で思いっきり75-80を振ることにした。本来、8.0m級になると振り込みの精度や流す操作の精度が極端に難しくなる。
「これ、軽すぎて片手で操作できちゃいますよ」
7.5m、8.0m級の長尺竿が、ともすれば片手でも保持できる軽さ。素材の進化と設計のバランスがなせる業といえよう。
「下流域は数は少ないんですが、サイズはいいですよね。まあ、時間も時間ですし1匹釣れるようなら御の字でしょう」
あわよくば尺アマゴという夢を見つつ、淵に流れ込む瀬を丁寧に流すも、上流域とは魚影が違うのだろう。目印が安定したまま、下流へと流れて行く。丁寧に筋を探るも、反応がないとみるや、上流へ移動。岩盤の絡む瀬で目印に反応が出た。ビシッという鋭いアワセが決まると、ゼロリーダーⅡがきれいな弧を描く。
「サイズはいいですよ。ただ、尺とかそういうヤツではないですね」
さらに小砂利が多い開けた最下流域と目される広大な下流へと場所を移し、1匹を追加した。
「大場所の尺アマゴ狙いにもよさそうですね」
貸し切りとはいわないまでも、全国のいたるところで渓流に人がいない昨今、 ゼロリーダーⅡを手に渓魚と戯れてみるのも趣があっていいものだろう。