廣岡昭典
tester │ Akinori Hirooka
1980年生まれ。和歌山県・田辺市在住。日高川龍神で幼い頃から友釣りに親しむ。得意なスタイルに固執せず競技会や最新シーンを研究し、釣技を常に進化させ続けている名手。競技会の主な成績は2016年にG杯優勝、報知鮎釣り選手権では2011年と2019年に優勝。
緻密にナワバリを通しきる
細やかなオトリ管理を実現
競技会の実力者であり進化し続ける日高川龍神のトーナメンター、廣岡昭典。
繊細巧緻な鋭角操作によるオトリ管理のために生み出されたのが胴抜早瀬という新機軸。
今作では新たなショートレングスがラインナップ。その実力は？
緊張感のある競技会でプロト段階から性能を試す
「胴抜早瀬」。競技スペシャルにこの新カテゴリーが加わったのはV7からである。
監修者は、競技会で数々の実績を残す廣岡昭典。
「硬すぎる竿は釣れない、競技会では勝ちきれない」という持論をもとに、硬中硬の柔軟なアプローチ性能と引抜早瀬のパワーを融合した新調子を生み出した。
日高川龍神地区で兄弟や仲間と幼い頃から切磋琢磨してきた廣岡は、得意のスタイルに固執しない。
泳がせ技術を極めんとする兄・保貴とは対照的に、引き系釣技や小さなオモリを活用したオトリ操作など、最新シーンを研究しながら釣技を進化させ続けている。
廣岡は、メーカーの枠を超えた猛者たちが腕を競う「報知アユ釣り選手権」で2度頂点に立っている。2度目の優勝を果たした2019年大会、益田川を舞台にウイナーズロッドとして使用していたのが、今作のプロトロッド「胴抜早瀬」8.5mだった。
競技会では現行モデルの竿を使うのがテスター陣の通例ながら、廣岡は自ら手掛けた竿の真の性能を、緊張感のある現場でとことん試したいという強い思いで挑んだ。
「僕のような和歌山の人間が、中部に来ても釣り負けない竿を作りたかった。長良川郡上や馬瀬川上流のような石の大きな釣り場でも使いやすい調子を目指したんです」
大石底の河川は変化に富み、流心とヨレ、反転流や湧き上がる流れが複雑に入り混じる。大きな石の周囲には前後左右、上部下部と、スポットごとに異なるナワバリアユがいる。当然、釣り残してしまう魚も多い。
竿の全長が短くなれば操作の精度は高まり、ピンスポットのねらい撃ちも容易になる。
前作のV7には9mの胴抜早瀬しかラインナップがなかったが、8.5mというレングスは廣岡の中部河川攻略にとって最適な長さであった。
複雑な細かい筋もきっちり通せる竿
廣岡がこだわったのは、細かい流れを正確に通せる調子である。
先述のとおり、大石底の河川は流れが複雑だ。ねらいの筋からオトリを外さないためには、釣り人の細やかな竿さばきはもちろん、竿の柔軟性も重要になる。硬すぎる竿では川底に入りにくく、軟らかすぎても管理がしにくい。
「“点”にオトリを落とし込むだけなら硬い竿でもできますが、スポットに留めて尻尾を振らせたり、じんわり引き上げたりするのは難しくなります。だから絶妙な柔軟性が欲しかった。といっても“胴抜”というネーミングで軟らかいだけの胴調子と誤解してほしくありません。オトリを川底の流れに馴染ませ、かつ細やかに管理できるシャープさを兼ね備えています。それに23～24cmの良型も、しっかり浮かせてタモに飛ばせるパワーがあります」
感度にも妥協はない。緻密な管理泳がせを得意とする廣岡が大切にしているのは、オトリの尾ビレを振る“ブルブル”という感触だ。
「尾ビレを振った時のブルブルという感触が伝わってほしいんです。そのテンションを頼りにオトリを操作すると、よく掛かるからです」
本作には3本の穂先が付属するが、廣岡が愛用するのは繊細な操作に特化したSⅢカーボンソリッド。
「ソリッド穂先ではありますが、チューブラ感覚で使えるのがこの穂先のよいところ。ゼロが取りやすく感度もよい。繊細な操作が断然しやすくなります」
感度は当然ながらライン使いとも関係する。廣岡の愛用ラインは「メタブリッドⅡ」の高比重タイプ。競技会シーズンは主に0.04号を使用し、オトリが尾ビレを振る“ブルブル”を感じ取れる竿角度やラインの入水角度を調整していく。
V8では、さらに先鋭化された胴抜早瀬の全長ラインナップが登場。8.5mのほか、8m、7.5mも加わった。
「竿が短くなっても先調子にならないよう注意して組みました。僕のイメージは9mとまったく同じ調子です。そしてとにかく軽い！ 手に取れば分かりますが、まったく持ち重りがありません。特に竿を寝かせた操作時に出やすい持ち重り感もなく、とても軽やかにオトリを操れます」
15～24cmとサイズがバラつく天然アユ河川でも対応しやすい繊細な操作性に加え、パワーも充分。
「硬くなりがちな短竿ですが、曲がりがスムーズでタメも利きます。だからのされることも少ないです」
このように短竿であっても真のテクニカルロッドを目指したのが「胴抜早瀬」の3モデルである。
サイズのバラつく郡上でオトリを循環させるために
8月下旬、廣岡は「胴抜早瀬」8.5mを手に長良川郡上と馬瀬川上流で竿をだした。
初日に入川したのは長良川郡上の白鳥。昨夏の郡上は天然遡上が例年にないほど多かったが、そのぶん「型が小さい」と嘆く声も多かった。オトリにできないサイズが連発し、釣り人を悩ませたが、白鳥は下流の大和や八幡に比べれば良型も揃う。それでも天然アユは豊富である。その証拠に川底はへチまでビカビカに磨かれていた。
案の定、誰もが釣りやすい流れでは15cm以下の小型ばかり。廣岡は良型を揃えるべく、川底の掘れた小深いスポットや流れの強く当たる石の前をねらい撃ちしていく。こうした釣りにくい筋にはサイズのよいアユが残るからだ。
「この竿はオトリを川底に馴染ませるだけでなく、細かく“動かす”ことができます。オトリを動かせない竿は、僕の理想の調子とは言えません」
もちろん“動かす”といっても強引に引っ張るのではない。オトリの尾ビレをしっかり振らせて探ることだ。それは小さいオトリほど難しい。先調子ではなく、穂持ちにかけての粘りがその泳ぎをアシストしてくれる。
廣岡は1号以上のオモリを使うことは稀だが、3Bや5Bのチビ玉は多用する。アユが小さい時やオトリの動きを速めたい時、あるいは泳ぎを抑制したい時に出番がある。この日の郡上では、こうしたオモリ使いも駆使して小深いスポットを丁寧に探り、20cmクラスを連発させた。
不意に掛かる大型にも安心の粘り
2日目は馬瀬川上流に入川。廣岡が「中部河川の中でも一番好き」と語る、透明度の高い美しい川だ。一方で技術の差が出やすい放流河川でもある。昨夏の馬瀬川は7月初旬の大増水で放流アユが大量に流され、付き場にムラが目立った。加えて清冽ゆえにシーズンも早く、8月下旬には終盤を迎える。瀬のアカは腐り、ナワバリを張るアユも減っていた。まさに数を出すのが難しいシビアな状況だった。
アユが濃密な天然河川のように速いテンポの釣りは利かない。こういう時の廣岡は、目移りしないよう足の動きをスローにし、竿は鋭角の構えである。穂先・イト・オトリをねらいの筋と一直線に馴染ませて探っていく。
「竿を鋭角に構えるとポイントが小さく見え、目移りしにくいんです」
つまり遠くを釣らず、近距離を的確にねらう。今回の胴抜早瀬は8.5m、8m、7.5mのショートレングスなので、より精度の高い操作が可能だ。
廣岡はかつてフロロ水中イトを使った泳がせ釣りが得意だったが、10年ほど前から高比重の複合メタルを主軸に釣りを組み立てるようになった。フロロはオトリの泳ぎが軽やかで広範囲によく泳ぐ。廣岡の地元・日高川龍神では、渇水高水温のシビアな状況ほど、フロロ仕掛けによるフワフワとした泳がせ釣りで野アユの反応はよくなる。
高比重メタルは沈みがよい反面、オトリが弱ったり掛かり所が悪いと泳ぎが鈍る。廣岡はそれでも幅広い状況に対応しやすいメタルラインを使い込み、オトリの泳ぎを引き出せる竿とイトの角度を見出した。
鋭角の構えで竿を寝かせ、川底にオトリを馴染ませてから一歩下流へ、一歩後方に移動。そこから徐々に竿を立てていく。オトリは穂先の真下よりやや下流、やや斜め沖にいる。そこでゼロオバセ周辺のテンションでコントロールすると、オトリはピンポイントにステイしつつ、ブリブリと躍動感のある動きを見せる。テンションを強めると高確率で上流に動き出し、少々弱ったオトリでも泳ぎを引き出すことが可能になる。廣岡はこの釣りを「水中イト斜め入れ泳がせ」と呼んでいる。
2019年の報知アユ釣り選手権で、廣岡が「胴抜早瀬」8.5mのプロトを用いて優勝した際も、この「水中イト斜め入れ泳がせ」で泳ぎの悪い益田川の大アユをオトリに操作した。
「竿を寝かせて鋭角に構えればオトリは安定しますが、それでは動きが出ません。引き釣りでも泳がせ釣りでも、オトリに躍動感がなければ掛かりません。ポイントが目の前にくるように立ち位置を決めてオトリを入れ、一度安定させてから自分が動く。そうしてオトリが動き出しやすい角度にもっていく。目印が小刻みに揺れるぐらいまでテンションを加えると、オトリの動きが感じ取れます。この角度になれば、多少雑な操作でもオトリが大きくバランスを崩したり、下流へ泳いで行ったりすることはほぼありません」
鋭角の構えほど竿の曲がりは利きにくい。竿とイトの角度が90度なら操作時に曲がりが出るが、上ザオ45度の鋭角ではほとんど曲がらない。尾ビレを振る微妙なテンションをかけるとなれば柔軟な曲がり代があったほうが微調整できる。それを可能にするのが胴抜早瀬の調子である。
馬瀬川の実釣では23cmクラスを平均に、時には25cm級が掛かり竿を大きく曲げた。
「今回の馬瀬川もそうですが、近年の釣り場は大アユ化する河川が増えています。不意に掛かる25cmクラスにも対応できるのが胴抜早瀬の実力です。しっかり粘って魚を浮かせ、タモまできちんと飛ばせる。軟らかいだけの胴調子ではなく、芯のあるパワーを秘めています。だからサイズのバラつく川や多様なシチュエーションに対応できる竿なんです」
