

早田昭浩
60cmオーバーの銀ワサを、年間5枚釣ることを目標に週末ともなれば九州中を駆け回る。
得意なスタイルはサザエの遠投だが、春は手持ちスタイルの南方宙釣りもこなす。
釣り歴のほぼすべてが石鯛釣りで、石鯛以外に狙う魚は夏のクエ釣りくらい。
自己記録は73.3cm。ほかに71cmも仕留めていて、70cmオーバーの実績は2枚。
デカバン以外眼中なし、いつかは自己記録更新を目標に大物だけを狙い撃つ。
石鯛師早田の新たなる相棒
グランドバーサスV-Ⅱ遠投&くわせ
2月の鹿児島エリアを皮切りに、乗っ込みの時期にあわせ九州を北上する早田の石鯛ツアーも、5月には韓国の国境に近い対馬へと到達する。
そのころには、沖の独立礁で足元の壁を狙う南方宙釣りスタイル主体の釣りから変わり、スタンダードな置き竿や遠投スタイルが主軸になる。早田の得意とするスタイルだ。
石鯛釣りとは究極の大物釣りであり、その石鯛師の中でも早田はまさに大物石鯛釣師の筆頭である。
「60cmオーバーを年間5枚、獲れたらよかですよね。5kgを超えるようならいうことなしです」
19歳から石鯛一筋で37年もの月日を費やし、いまも週末となれば九州所せましとあちこちを駆け巡る。
その情熱は、ひとえに70㎝を超える石鯛を手にするために注がれる。
「73.3㎝の自己記録を超える銀ワサが釣りたかですね」
石鯛人生を締めくくるべく、狙うは75cm。いや80cmか、それとも日本記録か。
その大物石鯛を攻略するうえで欠かせない釣法が遠投釣法。
時に100mを超える沖のピンスポットを撃ち抜く早田の技術には定評がある。





「誰も触れていないポイント。誰も知らないポイント。誰も気づいていないポイント。
見落とされているポイント。そういう場所にこそ、巨大な石鯛がいるのは疑いようがない」
そんな遠投スタイルを支える新たなる武器が、グランドバーサスV-Ⅱ540である。遠投性能にさらなる磨きをかけている。


「素材を一新したおかげで、体感できるほどの進化を果たしています。特に遠投モデルは、飛距離が確実にアップしています」
中弾性にして最強の破断強度を誇る素材、TORAYCA🄬T1100Gはまさに石鯛竿との相性が最高の素材。
キャスト時の張りと舞い込み時の粘りを両立している。ねじれを防ぐPCS(パワークロスシステム)など、飛距離・剛性を高めるには欠かせない素材をふんだんに取り入れ、強度やパワーを確保しつつ、喰い込みのよさ、舞い込み性能は維持している。


石鯛釣りのスタイルとそれぞれにあった竿のモデル


さて、石鯛釣りのスタイルには大きく分けて3種類ある。
- 手持ちで足元の壁の中段を狙う南方宙釣り
- 足元~やや沖を狙う近場・中距離の置き竿釣法
- 50m以上沖を狙う遠投釣法
それぞれに専用の竿があり、使い分けるのだが、早田の釣りを見ていると釣り場に3種類の竿を持ってくる様子はない。
「それぞれ、まったく違う調子ですからね。置き竿用のくわせでも南方宙釣りはできなくもないし、手持ちで投げることができないかといえば、投げれないことはありません。しかし、それぞれの釣り方に特化させる形で調子をセッティングしてあるので、釣り場や自分のスタイルにあわせて使い分けます」
この日、釣り場に持ち込んだのは2本。遠投とあわせだった。遠投は文字通り、キャストして遠くを狙うためのモデル。早田の場合は50号のオモリで使用する。あわせは、石鯛が走り、完全に舞い込むまで放置するための置き竿モデル。今回は20~30mキャストして使うことを想定している。
「例えば、足元で水深30mもあるような沖磯で釣りをする場合、100mも遠投するようなケースはないですね。そういう釣り場では足元がポイントになります。遠投で狙う釣り場というのは、全体的に浅く、沖にシモリが目視できるような場所。そういう沖にある瀬やシモリを狙います。釣り場が深いイメージの石鯛ですが、実は体高分の水深があれば石鯛はいますよ」
水深1mでも石鯛はいる。水深3mもあればポイントになる。そうなるとあらゆる海岸線がポイントなんじゃないかと思えるほどにポイントが広がる。
「だからといって、どこでもいいというわけにいかないのが石鯛ですね。いる場所というのは少なくて、適当にやって釣れるものではないです」
春は沖磯の足元にある壁を狙う


「まず、石鯛は春になると越冬していた深場から産卵のために接岸してくるわけです。これを乗っ込みといいますが、初期は沖に浮かぶ足元から深い磯が有利になります。そういった場所では、手持ちスタイルのいわゆる南方宙釣りで狙うわけです。冬に深場で柔らかい餌を食べていたと思われる石鯛は、初期は硬い餌を好みません。赤貝のような柔らかい餌を数珠掛けにして狙います。当然、赤貝はエサ取りに弱く、遠投には向きません」


季節が進むにしたがい、だんだんと岸寄りの磯に石鯛が付き、地磯や浅場でも釣れるようになる。
「初夏や秋は地かたよりの浅場に優位性があります。そのころには、ウニやサザエ、カメノテ、フジツボなど、硬い餌を好んで食べるようになります。だから遠投で使う餌はサザエがメインです」

石鯛の餌として有名なトゲの長いガンガゼを早田はあまり好き好んでは使わない。 「石鯛のオスメスの判別は簡単で、模様が消え、銀ワサと呼ばれるのがオス。大きくなってもシマシマが消えないのがメスです。見た目以上に性格が異なっていて、オスの方が荒々しく、アタリも大きく、引きも強烈で、厚みがあってウエイトが乗りやすいんですよ」
同じ魚ではあるが、オスとメスで性格というか、性質が違う。「何よりもカッコイイですよね、オスは」かっこよく、強く、豪快なオスが早田の目指すターゲット。
「オスはサザエが好きなんですよね。メスはガンガゼとかウニ類の身に含まれる成分が好きみたいですね。ガンガゼを使うと小さなイシガキダイを寄せてしまうんですね。そうなると大物を狙って釣るような釣りができなくなる」
いまもっともデカい石鯛に近い島・対馬


4月、5月に、66㎝、65㎝の石鯛を立て続けに釣り、絶対の自信を持って訪れた対馬であった。それにしても2024年は天候がおかしい。温帯湿潤気候に属するはずの日本ではあるが、亜熱帯へと移行しているのだろうか。天気予報を見ていると、中国と韓国の間の海上で、毎週のように900ヘクトパスカル台の渦ができては、強風と雨をもたらした。もはや梅雨なのか台風なのか区別がつかないような、そんな悪天候のさなかの釣行となった。半日ごとに目まぐるしく変わる予報に、延期も頭をよぎったが、これ以上、後ろ倒ししてしまうと、真夏になってしまう。
「1日あれば5枚は釣れますから、やってしまいましょう」
オフシーズン間近というか、7月と8月は、本来、クエ釣りに移行している時期である。春の感触からいえば、1日5枚は硬く、60㎝後半、70㎝の期待も持てるはず。少なくとも1枚、2枚は釣れるだろう、と。ロケ日程は2日半を予定していたが、二日目はカメラ機材を出すことも不可能と思われる大雨・強風の予報。
石鯛に最適な潮色とは真逆の
緑な菜っ葉潮が広がる海
期待感をもって磯に渡る。
だが、そこには見たこともない白みどり色の海が広がっていた。


「菜っ葉潮ですね。それも、だいぶ濁りがきつい。かなりの雨だったんでしょうね」
毎週のように押し寄せる台風のような大風のせいで、この2週間、渡船が出れていなったという。黒く澄んだ石鯛の好む潮ばかり見慣れていた早田は面食らった。だが、躊躇している暇はない。
石鯛の時合いは1日に数度ある。満潮・干潮の潮どまり前と潮の動き出しと、ほかに朝まずめと夕まずめ。中でも朝まずめの時合いは鉄板で、この時合いを逃すと苦戦をしいられる。
「朝まずめで少なくとも1枚は釣ります」
期待感を胸にグランドバーサスV-Ⅱ540遠投を軽く振りぬき60m沖へと着水させた。オモリは釣友の作るオリジナル形状の50号。ハリはがま石17号。ハリスは短めの15㎝で、しなやかな7×7ワイヤーの45番。これを半誘導天秤仕掛に瀬ズレワイヤー#36をひとヒロ弱とっている。餌はサザエの2個掛け。
「小ぶりなサザエの方がいいんですが、サイズはなかなか選べないですよね。小さいほうが赤身の分量と硬さがちょうどよく喰い込みやすいんですよ。これを3個、4個つける」
やや大きめのサザエだったため、2個で十分だったというわけだ。


鉄板の朝マヅメなのに、なぜかアタリが遠い


15mほど落として着底したら、底を探りながらリールを巻く。
オモリが海底の砂に触れ、やさしく揺れていた穂先が硬く弾くような感触になり、やがてもたれるように曲がりこむと、早田は大きく竿をあおりリールを巻いた。
「砂か変化のない岩盤から、駆け上がりのあるシモリに変化する場所でオモリが引っ掛かった。そこで竿をあおると、オモリをシモリの中腹までジャンプさせることができる」
リールのカウンターは45を表示している。
「高さのあるシモリのどこに石鯛がいるかを探す。底ではなく中段や頂上にいる。そういう目立つ場所に餌を置くようにする」
石鯛では早アワセは厳禁だが、完全に竿を舞い込ませるためには、石鯛が走りやすいようにする必要があり、走らせるためには走りやすい場所に餌を置く。それがシモリの起点ではなく、中段になる。
「ほかに駆け上がりや駆け下がりなど、明確な地形の変化を探すのが遠投石鯛釣りのコツ」
ピトンに竿をセットし、さっそく穂先がガタガタと揺れるかに思われたのだが、時折、小さく揺れる程度で石鯛からの魚信はない。
「……あれ? ちょっと、いままでとは雰囲気が違いますね」
これは苦戦するかもしれないな、と早田は顔を曇らせる。
置き竿スタイルに特化したグランドバーサスV-Ⅱ520くわせ

通常、2本の竿を出すケースはまずないのだが、この日は、グランドバーサスV-Ⅱの遠投モデル(遠投)と置き竿モデル(くわせ)の2種類の竿の最終テストとプロモーション撮影ということで、中近距離狙いにもう1本、出してもらう。
こちらの仕掛けは本仕掛と呼ぶ中通し式の仕掛でオモリは20号。ハリスはちょっとだけ長く20㎝。こちらのセットはカウンター35のポイントに餌を置いた。
その2本の竿に変化が訪れない。やがて朝まずめが終わろうとしているころには、この釣行が厳しいものになるであろうことを覚悟した。
簡単に釣れる時には誰でも簡単に釣れるのが石鯛。
しかし、ひとたび機嫌を損ねるといかに名手であっても一筋縄二筋縄でいかなくなる。喰わないときは喰わない。まるで喰わせようがないのである。
「イルカにおびえているんでしょうね。すごい群れでしたから」
餌のローテーションで舞い込みを誘う技で
銀ワサを攻め落とす


干潮を目前に控え遠投竿に大きく穂先を揺らすアタリが来た。
「押さえ込んだね。これは石鯛バイ」
石鯛は餌を突っつく際にくわえ込むのか、押し付けるのか、穂先がもたれて戻ってこなくなる。ほかのエサ取りでは、穂先が跳ねてまっすぐになるので見分けがつく。そこから、ぐん、ぐん、と徐々に竿が舞い込んでいき、さあ走るぞ、と皆の注目を集めた時には、はじけるように竿が直線に戻った。
「あー、離した。持っていかんね。でも、小さくはない」
その後も、遠投竿に石鯛と思わしきアタリが続くものの、勢いがない。そうこうする間に、竿先の揺れは遠のいてしまった。
「状況がよくないんでしょうね。正直、春でもないのに、なんでこんなに神経質なのか、わからないです」
打開すべく、トッポガニやジンガサを入れてみる。するとサザエとは打って変わって激しい反応が出だした。
「どうやらサザエが嫌われていますね」
ガンガンッと竿先が激しく揺れ、入るか入るか、いまかいまかと見ているが、残念ながら最後まで舞い込むにはいたらない。
「カニがすごかですね。でも、なかなか走ってくれない」

同じ魚が場所を動いているのか、潮の当たり具合で活性の具合が変わるのか、カウンター45の遠投ポイントではなく、カウンター35の中距離の竿に魚が当たりだした。
だが、数少ないトッポガニを割ってつけたり、割らずに殻もとらずにつけたりしている間に、ストックが切れた。
そこで登場するのが切り取ったツメ。ハンマーで軽くヒビをいれ、その上にジンガサを3個つけた。
こういった餌のコラボ方法や餌のとられ具合の調整に、早田の熟練の技を感じる。
仕掛を落ち着かせ、ピトンにセットされた竿掛けに竿を掛けようとしたときには、大きなアタリが出ていた。
「手持ちで送るしかないですかね」
そのまま手持ちで竿を送る早田。スス、スススと竿先が海面に近づいていく、「あと一走りしてくれ」現場にいる誰もが祈るように早田の持つ竿先へと視線が注がれる。
ズズズッ!
重みのある走りを確認するや強烈なアワセを叩き込んだ。ドスンと重みの乗ったグランドバーサスV-Ⅱが美しい弧を描く。
「小さくはなかよ」
とはいえ、グランドバーサスV-Ⅱの敵ではないとばかりに距離を詰め、抜く。
その着地地点がすべて海面に覆われていて、取り込んだはずの魚に逃げられそうになる場面もあったが、まずは1匹目のキャッチに成功した。
「このサイズやったら普通に走ってもおかしくはないんだけどなぁ」




55cm、オスの銀ワサで引きは強かったが、アタリは繊細そのものだった。
「産卵後の回復期でナーバスなんでしょうね。まだ、体調が回復していないんでしょう」
この一枚でカウンター35の中距離もアタリが途絶えた。
「夕まづめ、もう一発、チャンスがあるはずです」
夕マヅメ、サザエ餌の遠投竿に50cm級のメスがヒット
日が傾きかけ、光量が落ちたころ、再び沖を狙っていた遠投モデルにアタリが来た。
エサは再びサザエを使用。なんとか舞い込むまで見守ろうとした早田だったが、かなり深く曲がりこんだところで、戻ってきてしまった。
「今日は手持ちで送らんば、無理なんでしょうね。魚にパワーがないもんね」


手持ちで走るのを待つが、走り切れない。糸ふけを巻いて、効くと魚の手ごたえがある。
「引っ張りきらんもんね。ほら、もう掛かっとるもん」
舞い込み切れなかったものの、最初の走りで鈎掛かりしていたようだ。糸ふけをとり、力強く合わせると、竿が絞り込まれる。



「だからといって、これも小さいわけじゃないんですけどね」
今度はメスで50cmほどはある。
終わってみれば1日2枚。決して悪くはなく、むしろ出来すぎなほどの釣果なのだが、70㎝オーバーを狙っていた早田には物足りない結果だったのだろう。
「お腹ぺったんこですもんね。元気がないはずバイ。次は秋。元気になってから狙いに来ましょう」
