久保野孝太郎(くぼの・こうたろう)
ゼロウキをメインに軽い仕掛けを使いこなし、グレを手玉に取る。グレとの接点であるハリへの造詣が深く「掛りすぎ口太」や「ファイングレ」「アジャストグレ」などの開発にも尽力。豊富な経験に基づく分かりやすい理論と解説に定評がある。
初挑戦の2024年は低水温に泣く
「去年の5月下旬に初めて来たんだけど水温が低くてね。コンディションのいい口太は釣れたものの尾長には早かった。そのあと1週間ぐらいしてから尾長が釣れ出したと聞いたので、今年は一月遅れらせてやってきました。40cmオーバーがコンスタントに釣れているみたいなので昨年のリベンジを果たしたいですね」
そんな思いで久保野孝太郎さんが乗り込んだのは新潟県佐渡島。1mオーバーのマダイやロクマルのチヌで名高い日本海のこの島は、対馬暖流の恵みを受けることから口太グレの生息も知られていた。それに加えて温暖化の影響で数年前から40cmオーバーの尾長グレが釣れるようになり、昨年は53cmも上がるなど、いまもっとも注目を集めるエリアのひとつなのだ。
今回のアタックは7月上旬。初日は島の北岸中ほどの高千地区、2日目は北の先端に当たる藻浦地区を昨年同様に攻める予定だ。
初日は名礁・沖の巫女へ
初日の磯は名礁・沖の巫女。渡船が出る高千漁港の北沖に位置するこの磯は、足場が低くて波高1mでも渡れないが、潮通しがよくて尾長グレの実績はピカイチだと昨年に続き今年もガイドをしていただく三井宏志さん。佐渡市沢根五十里で山田屋釣具店を営み佐渡の釣りに精通するとともに、佐渡のグレ釣りに力を注ぐアングラーだ。
朝の早い時間よりも夕方が面白いとのことで、午前7時半に出船と、こののんびり感もいい。海はベタ凪だ。
沖の巫女の東西は根が張り出し北側は周りの磯に囲まれているため、南向きが釣り座となる。
「去年やった感じでは、魚の動きやアタリの出方が、自分がグレ釣りを始めたころみたいだったんですよ。ハリスが細くないと喰わないないとかじゃなくて、潮にちゃんと反応して素直に喰ってくる。そんな魚を逃さないよう太めの仕掛けでいきます」
そう語る久保野さんのタックルは、プロトロッド1.5号5.3m、道糸2.5号にゼロウキを通し、ハリス2.5号を2ヒロ、ハリはアジャストグレ7号。
「最初は軽いノーガン玉。ウキ下は2ヒロぐらいでウキ止めを付けずに探ってみます。いつも伊豆半島で口太に尾長がまじるときに使う僕の基本仕掛けですね。アジャストグレは細軸で喰い込みがよく尾長がきても飲み込まれずに口をがっちりとらえてくれます」
一投目にいきなり口太37.5cm
海に向かって右側の釣り座で先に竿を出していたのは三井さん。1ヒロほどのウキ下で30cm前後の口太を一投一尾のペースで仕留めていく。こうして口太の数を釣るなかに40cmオーバの尾長がまじってくるのだそうだ。
左側に釣り座を構えた久保野さんは8時40分に釣りをスタート。
やや左沖20mほどのところはマキエを打ち込み様子を見てから、マキエと離して潮上に仕掛けを投入。ゆっくりと右へ流れながら仕掛けがなじみウキがシモっていく。スーッとウキが引き込まれてからアワセを入れるとプロトロッドが気持ち良く弧を描いたく。ぎゅーんと竿を絞り込む締め込みを楽しみながらタモに収めたのは丸々と肥えた口太グレの37.5cm。
いきなりのグッドサイズに頬が緩む。
2投目も同じパターンでヒットさせるがハリ外れ。そして3投目には口太の39cmをゲットした。その後は30cm前後が数尾続いたあと正面30m沖へ狙いをチェンジ。これが当たった。
沖のヨレを直撃し尾長44cm
ひときわシャープな締め込みにプロトロッドが大きく弧を描く。竿尻をお腹に当ててじっくり寄せてくると足元から伸びる根の先で執拗な抵抗を見せたそれは44cmの尾長グレだった。
「沖の潮上狙いで何尾か型のいい口太がきたんですけど、同じところをやり続けたら細かいグレがエサを取るようになったんですね。ちょうど正面30mぐらい先にヨレッぽいのが見えたんだけど、そこはまだ一回も入れてない場所だったので、足元へ多めにマキエを入れて、ヨレへ3、4杯打ち、それにぴったり合わせた一投目に喰いました」
佐渡島の尾長はいい潮に反応して素直に喰ってくるというイメージ通りの1尾にしてやったりの久保野さんだった。
同じ場所を釣り続けると小さな口太が集まってくることから、ポイントとずらし、仕掛けを打ち込むタイミングを替えながら35cmオーバーの口太を追加していく。それにしても、このサイズの濃さは、太平洋側の釣り場に勝るとも劣らないというか、それ以上かもしれない。
全体的に魚が上ずってきたことからG7のウキに替えて浅いタナに照準し良型口太を追加。それまで触っていなかった潮下に遠投し40cmの尾長を取り込む。潮が緩くなったことで、右から左へ吹く風に押されて左へ流れる仕掛けと、右へ流れるマキエが合うタイミングで喰わせた技ありの1尾だった。
本命の下り潮でサイズアップ
午後1時を過ぎると右から左へ本命の下り潮が流れ出した。「こんな潮はめったにない」と三井さんが驚くほどに流れはどんどん速くなっていく。そんななかで三井さんが44cmの尾長を2尾キャッチ。
一方の久保野さんは、流れに仕掛けを入れながら操作をしてマキエときっちり合わせられるようにゼロウキにG5を打ちウキ止めを付けて張れる仕掛けに変更。狙いが的中し44.5cmの尾長を引き出した。
「やっぱり仕掛けを替えたりいろいろすると答えが出るので、この1尾はうれしいですね」
これぞグレ釣りの醍醐味であり、佐渡のグレは釣り人のアプローチにきっちり答えてくれるのでうれしい。
夕方4時を回って潮が止まると、久保野さんはオモリをG4とG5の段打ちにチェンジ。ウキごと仕掛けを沈めていき、竿1本半ほどサシエが入ったところで止めて待つ。するとスーッと引き込むアタリ。重量感たっぷりの引きを楽しませてくれたのは44cmの口太だった。
「7月とは思えない冬の口太みたいな丸々と肥えたグッドコンディションの1尾ですね。44cmの尾長に口太の両方が釣れて最高です。引きも本当に強いですね。冬のグレ釣りでやり残した感がある人は、佐渡島でそれを満たすことができますよ」
大満足の初日を終えた久保野さんだった。
佐渡島イチ潮が走るトド瀬へ
2日目は佐渡島イチ潮が速いといわれる藻浦のトド瀬に渡礁。マダイの1m10kg、カンダイ10kg、ヒラマサの10〜20kgが出る磯で、40cmオーバーの尾長グレの実績も高い磯だ。
昨年も2日目に上がった磯だが、そのときは水温が14度と低く、尾長は28cm1尾に終わっただけに、是が非でも良型の尾長がほしいところだ。
朝から風が強いことから操作性がよいようにプロトロッド1.5号の5mをセレクト。道糸にゼロウキを通しハリスとの直結部にG5を打つ。流れの中で喰ってくる尾長に備えてきっちり仕掛けが張れるよう、ウキ止めを付けて2ヒロ半のウキ下で午前7時25分に釣りを開始した。
陸向きにある磯との水道を右から左へ下り潮が流れている。その流れにマキエとサシエを合わせると、すぐさま木っ葉グレがヒット。
2投目はマキエから仕掛けを離して潮下に投入。型のいいグレは木っ葉の潮下で流れてくるマキエを喰っているのでそこを狙うというセオリー通りの攻めで、35〜36cmの口太を取り込んだ。
この日の水温は22度。エサ取りのスズメダイと木っ葉グレの活性が高く、あっという間に足元はスズメダイ、前方には木っ葉グレがわき始めた。
マキエのドカ撒きで挑む
「こんなときにチマチマ撒くとマキエが残らないので、ドカ撒きをして潮下の深いタナに届くようにすると型のいいグレが出るんですよ」
言葉通りの攻めで32〜33cmの口太を引き出すが、それ以上に小型の活性がアップし、どんどんサイズがダウンする厳しい展開。しかし、9時を過ぎたころから南西の風が強まり、いい感じに海面がバチャ付きだした。
前方に頭を出しているシモリの潮下にできるヨレに照準した久保野さんは、エサ取り用のマキエを足元にたっぷり打ったあと、そのヨレにもマキエを多めに打ってから仕掛けを投入。仕掛けの投入点を変えながら32〜33cmの口太を数尾仕留めたあと、この日一番のアタリをとらえた。
プロトロッド5mを強烈な締め込みが襲う。竿尻をお腹に当ててしっかりと竿を曲げ込み魚の力を奪っていく。
磯際での執拗な締め込みを見せたのは尾長グレ43cm。狙い通りに引き出した1尾に久保野さんの笑顔が映えた。
この日はフェリーに乗って新潟まで戻るため、11時に早上がり。尾長グレは1尾に終わったが、それで十分だった。
「尾長一本の仕掛けで喰わせたので達成感のある1尾でしたね。2日間を通して40cm半ばの尾長が複数尾釣れてリベンジはできたかなと思います。佐渡島はこれから尾長が増えていくでしょうし、いまいる魚もサイズアップすると思いますので、50cmオーバーを目指してまた訪れたいですね」
爽やかに佐渡島を後にする久保野さんだった。