GAMAKATSU

ふたつの石鯛釣り 銀ワサ狙いとクチジロ狙いの違い ふたつの石鯛釣り 銀ワサ狙いとクチジロ狙いの違い

早田昭浩 写真

早田昭浩

年間5枚の石鯛60㎝オーバーを仕留めることが目標。身長185㎝の巨躯から繰り出す遠投釣法が得意技で、2024年は71㎝を頭に65㎝オーバー4枚を仕留めている。
遠投釣法のほか、春は南方宙釣りの出番が多く、関東に転勤していた時代には、関東置き竿スタイルも習得しており、置き竿、宙釣り、遠投の3種類をこなす石鯛マルチプレイヤー。和竿への造詣も深い。過去に仕留めた70㎝オーバーの数は2枚。

石鯛師の夢、70㎝の石鯛、80㎝のクチジロ

釣り上げた大物銀ワサを両手に持ち、微笑む早田

70㎝を超える銀ワサを釣ること。

石鯛師というものは、もともと大物釣り師であるのだが、なかでも早田という石鯛師は、一生モノのデカ判を釣ることにすべてを賭けているといっていいだろう。いつだったか、「あのポイントは、65㎝クラスまでしか期待できないんで、もう行かなくなりました」といっていた。

65㎝ではダメなのだ。70㎝が欲しいのだ。

縞模様が残るメスの石鯛と、模様の消えたオスの石鯛

中でも、メスの石鯛ではなく、オスの石鯛にこだわっている。
メスはどんなに大きくなっても縞々が消えない。オスは40㎝を超えるころには模様が消え、銀ワサと呼ばれるようになる。日本記録級の特大サイズは、メスが多い。だが、早田は80㎝のオスの石鯛が釣りたいのである。

そのエサはサザエと決まっている。

早田といえば、『銀ワサ70㎝・遠投・サザエ』である。南方宙釣りもするし、中距離置き竿釣法もするし、赤貝も使う。 だが、実は、ウニつまりガンガゼは使わない。

道具を用いてサザエの身を剥こうとしている様子
早田昭浩

「サザエはオスが喰う。ガンガゼはメスが喰う。統計を取るとその割合が高いんですよ」

ひとたび、ガンガゼの使い方を語り出せば、いくつもの技を披露できるくらいには、使用していた実績もノウハウもあるのだが、メスの石鯛がよく釣れる、小型のイシガキダイを寄せてしまうという特性が強いことから、いまは、もう出番がなくなってしまった餌である。

サザエを用いた遠投釣法が難しいわけ

竿を振り、仕掛けを遠方に投げ入れようとする早田

早田の得意とする遠投サザエ釣法は、恐ろしく忍耐の釣りである。

早田昭浩

「1時間に1回の餌交換。この頻度を高くしてはダメですね」

鈎にサザエの赤身が残っていると信じて、揺れない穂先を眺め、待つ。ひっきりなしに打ち返しが必要なようではダメで、集魚力の弱い餌に石鯛を集める力は乏しく、めったに揺れない穂先に我慢に我慢を重ねる必要がある。

投じた餌が30分以上の時間をかけて自然と一体化し、警戒心の強い石鯛が警戒を解いた瞬間、初めて穂先を抑え込む。それが80m沖の1点で繰り広げられ、しかも、どちらかといえば人気・実績のある釣り場ではなく、石鯛がいるかどうかもわからない、実績も何もない釣り場で行うものだとなれば、そのエサを置いた場所がズレていないのか正しいのか、そもそも石鯛がいるのかどうか、疑心暗鬼になりながら、ひたすら待つのである。

まるで水墨画を再現したかのような『静』の釣り風景は、行き着いたひとつの完成形である。これこそがまさに早田という人間の生き様なのであろう。

日が沈み、暗くなり始めている海の景色。磯にはスタンドに固定した釣竿が設置され、アタリを待っている

ガンガゼ・シラガウニにカラー鈎『白ガゼ』という選択肢

頑なにこだわり抜いたひとつのスタイルに固執する一方で、早田には子供のような無邪気な1面もあり、スナズリは赤貝の代わりになるかとか、フリーズドライしたサザエを餌にできないものかとか、スーパーの海鮮コーナーで釣り餌になるものはないか、とか、そういったワクワクの好奇心が抑えられないという愉快な一面もある。

右手に白ガゼのパッケージ、左手に商品である鈎を持っている早田

そんな好奇心をくすぐるアイテムが今回の主役。白ガゼという鈎である。
何かといわれれば、石鯛用の鈎である。

開いたウニの中に、白色の鈎・白ガゼを添えている写真。ウニの芯の白と鈎の白はほぼ同じ色味に見える。

石鯛の鈎といえば、黒いのがルールのようで、たしかに銀や濃い紫もある。そこへ来て、白である。コロンブスの卵のようで、なるほどたしかに石鯛が好むといわれるウニの芯は白い。ということは、鈎の色が黒いよりも白いほうが、実はカムフラージュになるという発想。

また、石鯛は実は好奇心が高い魚で、目立つ色のものが大好きで、蛍光色の餌ホルダーや白に着色したオモリを使い、効果もあるようだ。

早田昭浩

「ふむ。おもしろそうではありますね」

ウニ嫌いでサザエ好きな早田であるが、ウニばかりを使うケースも実はある。それがクチジロ狙いの時だ。

クチジロはイシガキダイの老成魚で、大きいものでは80㎝10㎏を超える。一時は、男女群島にクチジロ狙いで足しげく通ったことのある早田である。いまも、八丈島や硫黄島にクチジロを求めて出かけている。クチジロ80㎝10㎏は、石鯛師共通の夢なのである。

磯上に横たわらせたクチジロ
早田昭浩

「クチジロもオスは模様が消えるんですが、クチジロと石鯛は、全然違う魚で、習性がかなり違います。一番違うのが、好みの餌。クチジロといえばシラガウニです」

針と殻が白いシラガウニと、黒色のウニ

シラガウニは、石鯛釣りによく使われる3大ウニのひとつで、ガンガゼと違い、棘が短くて太く、殻も硬い。ガンガゼに比べると、やや小ぶりながら、匂いがきつい印象を受ける。

南方海域でよく釣れるクチジロは、餌の調達が困難で本州から冷凍ものを持ち込むことがほとんどだが、比較的、冷凍しても品質が保たれることや、南方の多彩なエサ取りに対して多少なりとも取られにくいことなどの理由で、シラガウニはなくてはならないクチジロ狙いの餌といえる。

早田昭浩

「クチジロの餌というと、ほかにガンガゼは外せません。喰い込みが悪い時とか、ガンガゼの方が柔らかく違和感なく喰い込むケースが少なくありません。だいたい両方とも渡船屋さんや餌屋さんで取り扱いがあるので、両方、持ち込みます」

ほかに、イセエビやマガニといった甲殻類も有効。

早田昭浩

「サザエでも釣れましたし、男女群島だと赤貝で大型が釣れています。石鯛が喰うエサはクチジロも喰うんでしょう。ただし、その中でも、ウニ類は好物」

そして、クチジロに関してはオスもウニ類を好むということ。

早田昭浩

「ウニは集魚力が強いので、撒き餌の効果も期待できます。だから、別途、撒き餌を用意する必要がなくなるのも、遠征にはありがたいですよね」

硫黄島→黒島への行先変更、吉と出るか凶と出るか

磯の上に置かれた3枚の石鯛

強風の吹き荒れることが多い昨今の地球という表現は、共感いただけるものだろうか。
週末に波が高い、週末に風が強いというケースが、特に春は多い。このときも例外ではなく、もう初夏だというのに週末は強風・大雨予報。その予定を1日前倒しにしたがために、目的地も変更となった。目指すは黒島となった。
実はクエとの2本立て取材で、クチジロはサブ的な立ち位置のつもりでいた。まあ、イシガキダイの40~55㎝くらいは、何枚か釣れるだろうと。

深夜に港を出港した船は、夜明けのころに黒島へと到着した。ここから2泊3日の工程で、クチジロとクエを狙う。多めに持ち込んだエサは、シラガウニ15㎏にガンガゼ60個だったか、80個だったか、ほかにバーベキュー食材と一緒に買ったバナメイエビや冷凍アサリも持ち込んでみた。

黒島の岩礁

朝マヅメ。潮がない。小型のイシガキダイか、エサ取りが穂先を揺らす。ガンガゼから投入した早田だが、アタリの小ささから本命ではないと肩を落とす。

吉村政治

「しばらくエサが入ってないんじゃないかな。いいサイズのイシガキダイがいる感じは今はしない。まぁ、ここから潮が効いてどうなるかでしょうね」

スタンドに固定し、磯に設置した釣竿。穂先が緩く弧を描いている。

その潮が来ない。午前中は下げ潮のタイミングなのだが、まるで流れない。琵琶湖で釣りでもしているかのように、流れがない。いまかいまかと流れを待ち望んで、丸半日、とうとう最干潮にいたるまで、流れらしい流れが来なかった。朝マヅメに触りに来ていた獲物たちも、太陽が出るころには早々にいなくなり、あとは、もう、ただ静かな穂先をじーっと眺める時間が続いた。時折、撒き餌をしてみるも状況に変化はなかった。

早田昭浩

「潮が変わって、上げ潮が効いてきてからでしょう、勝負は」

ウニ・ガゼをあきらめ、冷凍アサリで1枚

上げ潮が入り、安定した流れが左から右へと流れ出した。待ちに待った滔々とした流れにも関わらず、しばらくはアタリが無かった。
だが、潮が緩むころに徐々に朝マヅメのようなアタリが出だした。

スタンドに固定し、磯に設置した釣竿。穂先が真下方向に向き弧を描いている。
早田昭浩

「でも、走らんねぇ」

どちらかといえば、石鯛に比べ攻撃的なイシガキダイは、あまり神経質なアタリを出さずに、勇ましく勢いよく走るケースが多いのだが、小型石鯛か、いっそ小さいエサ取りかというくらい小さなアタリが続き、3段引きの2段までもなかなか走り切れない。

その間、ガンガゼ、シラガウニの芯3段掛けなどを交互に試しながらも、いま一つ、走り込まない時間が続いた。

吉村政治

「まぁ、いろいろ試してみましょうか」

(どうせ50㎝にも満たないイシガキダイでしょう)という含みを持たせ、スーパーで買い込んだバナメイエビやアサリを試す。

仕掛けに括り付けたガンガゼ シラガウニの芯を3段掛けにした仕掛け ボイルアサリの剥き身
早田昭浩

「白ガゼではありますが、意外と石鯛の餌ってどれも白っぽいんで、エビも貝も、そんなに白い色の鈎に違和感はないですね。まぁ、人間が見た感想ですけど」

岩礁に立ち、宙釣りの構えでアワセのタイミングを計る早田

まるで赤貝で宙釣りをしているかのように手持ちに構え、しっかり送り込んで走り切ったところで、アワセをくれた。

腰を引き、大きく曲がる竿を操作する早田

撮影だけに1枚はないと格好がつかないと思ってくれたのだろう。
40㎝に欠けるイシガキダイを手にすることができた。

釣り上げたイシガキダイを手に、笑顔の早田
釣り上げたイシガキダイの頭部。口には白ガゼ鈎がしっかり掛かっている。
早田昭浩

「そうかといって、アタリが続かないんですよね」

このサイズなら、離島エリアまで足を延ばさなくても九州・関西なら近所でも釣れる。なんなら、連発するケースもある。

早田昭浩

「群れ薄いですよね。とはいえ、これが離島のもうひとつの現実だという事です」

まさか、この日のこの瞬間が、この旅のクライマックスになるとは思いもよらず。

スタンドに固定し、磯に設置した釣竿の隣に座り、海を見つめる早田の背中

翌朝。朝マヅメなのに竿先が揺れず。
餌が余って仕方がないので、贅沢にも生のシラガウニをおおいに砕き、撒き餌にバラまいたのだ。それにも関わらず、あまりにも変化がない。

まぁ、昼からの上げ潮を待ちましょうと余裕をみせながら、まさか昼になっても前日のいい流れが来ず、やや流れたところでイシガキダイからの魚信もなく。その間、底、中層とタナを探るも、変化なしでお手上げ状態。

早田昭浩

「正直、これ以上、やれることがないですね。まぁ、割りといいサイズの実績もあるらしいので、またの機会にしましょうか」

大物を釣り上げた直後の早田。ラインを持った手を頭上に挙げ、笑顔を見せる。

黒潮のあたる離島海域は、意外とプアなケースが珍しくない。
ただし、当たればデカく夢があるのも事実。
白ガゼという鈎の本領発揮は、次回持ち越しとなった。