【ヒーロー　藤井夢人選手】

自然にあらがわない釣り

激しい流れや短時間で向きが変わる下津井沖の潮。県外の選手らはこれまで仕掛けや攻め方を工夫し、お立ち台を目指しながら何度も泣かされた。

藤井選手は貪欲にチヌを追うことはしない。そのポイントで「釣れるタイミングに仕掛けが入っていれば魚は食う」「ガンガン潮が流れる所はヨレが出来るまで待つ」「際を釣るのに藻は気になるが、ラインが瀬に当たらないので」と、複雑な仕掛けを避けて、自然にあらがわない釣りを通し48選手の頂点に立った。
「うれしい」。表彰台の上ではつま先立ちで161cmの小柄な上背を補って最高の眺めを楽しんだ。「気分いいです。運もよかったし、潮もだいぶ味方してくれました」と初出場で栄冠を手にし素直に喜んだ。
日本海の澄んだ海と清流の高津川が流れる環境で育ち、竿を持つには何の違和感もなかった。小学生のころはハゼ釣り、中学生になって釣具店の常連から「フカセ釣りを教えてもらった」。楽しさは磯から波止、アユ釣りへと広がった。
下見は2週間前に2日間ほどした。自分で出来る仕掛けでいろいろ試すと「釣れるタイミングはほぼ一緒。探ったイメージはない。魚がいてタイミングさえ合えば釣れてくる」確信を得て、オーソドックスな仕掛けで本番に挑んだ。
初日の予選リーグは強豪、猪熊博之選手（45・がまかつ推薦）に小差勝ちし2勝2分けで勝ち、翌日の決勝リーグは3人が2勝1敗で並んだが、2ポイント差で見事大舞台の権利を得た。
対戦相手は2年連続で表彰台に立つ波多選手。前半、1匹先行されても「残り10分だったし、次は自分が入るから釣る自信はあった」。後半、1投目に40cm近い型。ハリス最下段のガン玉の移動でエサの沈む速度を調整して瀬や藻際を流しチヌの浮くタイミングを想定して45cm級、終了10分前にも1匹追加。「同じ仕掛け、同じ釣り方を通して」釣る自然体が「よかった」と振り返った。
「今回は出来すぎ」と言いながら秋は「エサ取りが多いので苦戦すると思いますが、その時に合った仕掛けを考えて狙います。その前にG杯アユを狙います」。魚への思いとは違い、G杯獲得には貪欲だった。

【竿】タメているだけで魚が浮いてくる 風の中でも操作性抜群！自然と手になじむ
がま磯　チヌ競技スペシャルIII 0.6号 5.3m

今回、競技会ということで、持っている数種類の中からこの「チヌ競技スペシャルIII 0.6号　5.3m」に決めました。
と言いますのは、試し釣りしたとき下津井のチヌは予想以上に引きが強かったので、胴調子よりも先調子に近く、少し硬めの竿を使ったほうがいいと判断しました。あまり胴に乗ると私には逆に取り込み辛くなります。予選、決勝リーグ戦を通して使用しましたが、この竿は魚を掛けてから無理に引かずタメているだけで浮いて来ます。魚と竿がうまくマッチしてくれてよかったです。もちろん振り込むときのコントロール性、風の中での扱い安さは抜群でした。
秋の大会でもこの竿を使う予定です。今回、優勝できました縁起のいい竿ですから。何より使っていて疲れないし、自然と手になじんでくれるのがいいです。

【ハリ】ホワイトカラーが海の情報を的確に伝え、エサの存在をアピール
トーナメント チヌ 2号、3号

試し釣りのとき数種類のハリを試しましたが「トーナメントチヌ」のイメージが良く、大会本番では「2号」を中心に使いました。
この時期はフグが多く、それが一瞬消えたときにチヌが出て来るイメージだったので、エサを取っている魚が何かを知りたくて使いました。「ホワイトカラー」がコーティングされているから、フグがかじったのなら白い塗装が削られるのですぐ分かります。海の情報が的確に分かるのがいいですね。それに白い色はチヌに対してエサの存在をしっかりアピールしてくれます。だから競技中、コーティングが削られたら次々と交換していきます。ハリ先は鋭く掛かりも申し分ありませんでした。
ポイントによって大型が食うとサイズを「3号」にし、型が小さくなると「2号」戻すといった使い分けをしました。

談話

2位・波多瑞紀選手の話

G杯出場は中学生のころからの夢で、しかも憧れの表彰台へ3回連続して立つことが出来ました。うれしいです。今回も優勝にはこだわらず、大会の冊子に自身の名前や戦った足跡を残したい一心で釣りました。
決勝戦の前半は沖のヨレを釣ろうと思ったのですが、手前に沈み根あり、ハリス切れを気にして攻め切れず1匹でした。あそこでもっと釣らないといけません。全国大会4度目の出場で1年ごとに鍛えられ、成長していると思います。秋の大会は気を抜かないで一からやり直して頑張ります。

3位・西尾光治選手の話

初めて全国大会に出場し入賞できてうれしいです。
決勝リーグの1回戦は潮が味方してくれてバタバタと釣れましたが、2回戦は沖のフグのいない所を狙わないといけないのにそれが出来なかった。3回戦が始まる前に大会関係者から「まだチャンスはある」と教えられ、気合を入れて釣り3位決定戦へ進むことが出来ました。秋に向けては何度か下津井へ通い、風の潮を読み切って貪欲に狙っていこうと思います。クラブの先輩たちも頑張っているので、出来れば表彰台の真ん中に立ちたいです。

岩本敬昭審査委員長の話

今シーズンの下津井沖のチヌは、水温の上昇が遅かったことや藻が少ないことなど諸条件が重なったせいか、例年に比べ食いが遅れた。それでも選手のレベルが高いこともあり、まずまずの釣果を出してくれた。
優勝した藤井選手は仕掛を斜めに引っ張り気味にする方法で、落ち込みのアタリを取って釣っていた。違ったタイプの面白い釣り方をしていた。エサの沈む速度を変えてチヌの浮くタイミングを想定しながら釣るなど若い人は常識に捕らわれない釣りをするからいい。波多選手は潮が予想より引かず苦戦し、残念な結果だった。
今回、決勝リーグには福島や神奈川、富山や大分などの地域の選手が勝ち上がってきたので期待したが、まだ中国勢の後ろ姿が少し見えた程度で、牙城を崩すのは難しいだろう。
秋の大会はエサ取りも増えるし、チヌの付き位置も変わるからピンポイントで釣ることになる。難しくなる分面白い戦いが期待出来そうだ。